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5月5日 … 「菖蒲の節供」とも称します

0505img02.gif「屋根より高い鯉のぼり 大きい真鯉(まごい)はお父さん 小さい緋鯉(ひごい)は子どもたち おもしろそうに泳いでる」(近藤宮子作詞)

国民の祝日「こどもの日」として親しまれ、冒頭でご紹介しました童謡「こいのぼり」でも歌詞に情景と願いが描かれている端午は、男の子の節句。今でも旧家では堂々とした甲冑を飾る光景が見られ、鯉のぼりも目立つのは大きな雄(男)の真鯉です。京都における神事では、男性的とも言うべき上賀茂神社の競馬(くらべうま)や藤森神社の駈馬(かけうま)などが奉納されます。

03-01.jpgちなみに駈馬は勝負(しょうぶ)事であり、武道や武勇を重んじる尚武(しょうぶ)精神は「菖蒲(しょうぶ)」に通じるとも言われ、藤森神社は日本における「菖蒲の節句発祥の地」として知られています。

閑話休題。5月5日の端午とは旧暦の5月が十二支の牛にあたり、その月の端(はじめ)を意味します。昨今では子どもの成長を祝う節句である端午ですが、古代中国では5月は一年のなかでも悪月とされ、多くの邪気を祓う風習が記録として残っています(※1)。それらは日本にも伝来し、なかでも強い香気が邪気を祓うだけでなく薬性の面でも重用されたアヤメ科の菖蒲にまつわる風習が多く継承されています。

たとえば、端午の前夜に菖蒲を枕の下に敷いて寝る事で邪気を祓うだけでなく気分も爽快になる「菖蒲枕」。菖蒲の根を刻んで酒に浸し厄よけとして飲む「菖蒲酒」。いまだ端午の日には温泉地や銭湯などで張り紙を見かける「菖蒲湯」は、これに入ると厳しい夏を乗り越えられるといわれています。他にも「菖蒲刀」や「菖蒲葺」などあります。

いずれの風習も平安時代後期から室町時代にかけての文献に記録が残されており、江戸時代以降、広く庶民にも受け継がれました。

(※1)菖蒲酒を飲み邪気を祓う・艾(よもぎ)で人形を作り門戸にかける・薬草を摘む・百草を較べあう・競渡と称する船の競争等。陰暦の5月5日は梅雨入りと田植えの時期にあたり、疫病が多い初夏を乗り切り豊作を祈願する意味合いがあったと考えられている。

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京都における端午の行事・祭事

賀茂競馬
 上賀茂神社(菖蒲根合わせの儀・9:30頃/競駈・15:00〜16:00頃)

  • 寛治七年(1093)年、堀河天皇の勅願により五穀豊穣・天下泰平を祈願し、武徳殿で催されていた競馬の宮中行事を移し始められた。この祭礼に先立ち5月1日には出場する馬を集め組み合わせの順番を決める足揃の儀が催される。
  • >>上賀茂神社のウェブサイト

藤森祭  
 藤森神社(神輿巡行・武者行列・9:00〜18:00/競駈神事・13:00)

  • 武術における馬術が行事として採用された祭礼の原形といわれ、寿及左馬の一字書き、藤下がり、手綱潜り、横乗り、逆立ち、矢払い、逆乗り(地藏)といった曲芸的な馬術を競いあう。
  • >>藤森神社のウェブサイト

端午の和歌・俳句

かきつばた衣に摺りつけ大夫(ますらを)の 着襲ひ猟する月は来にけり
 (大伴家持 『万葉集』)

ほととぎす鳴くや五月のあやめぐさ文目(あやめ)も知らぬ恋もするかな
 (詠み人知らず 『古今和歌集』) ※あやめぐさ…菖蒲

から衣着つつなれにしつましあれば はるばる来ぬる旅をしぞ思ふ
 (在原業平『伊勢物語』) ※それぞれの句の頭が「か」「き」「つ」「ば」「た」

粽結ふかた手にはさむ額髪   (松尾芭蕉)

あやめ草足に結ん草鞋の緒   (松尾芭蕉)

粽解いて廬吹く風の音聞かん   (与謝蕪村)

なつかしきあやめの水の行方かな   (高浜虚子)

端午に味わう飲食物

粽(ちまき)

  • 邪気を祓うとされる端午の節句では欠かせない和菓子で、米粉を蒸して搗(つ)いた“しんこ”あるいは葛を、五枚程の熊笹の葉で包んだものを蒸す。
  • 粽の由来は、紀元前二八五年頃の五月五日、汨羅(べきら)川に入水した楚(今の中国)の詩人・屈原の死を悼む供物までさかのぼる。毎年五月五日、里の人々が竹筒に米を入れ川に流し供養していたが、ある日、三閭太夫なる者が現れ「せっかくの供物も蛟龍(こうりゅう)という悪龍に盗まれるので、龍が苦手とする楝樹(れんじゅ)の葉で米を包み五色の糸でしばってほしい」と懇願した。この風習が節句の行事として日本にも伝わり、やがて屈原の故事から邪気を祓うものとされて食されるようになった。

柏餅

  • …“しんこ”を使った生地の中に餡(あん)を入れ「跡継ぎが絶えない」といういわれがある柏の葉で包んだ端午の節句ではおなじみの和菓子。京都では白味噌に砂糖を加え飴色になるまで練った「白あん」が好まれる。
  • 新芽の時期まで古い葉が残っていることから、無事に代を譲る「子孫繁栄」の樹である柏。その柏の葉で包まれた柏餅は「端午の節句(こどもの日)」に欠かせない生菓子。もともとは江戸期に関東方面で育まれたものとされている。

端午に味わう和菓子の一例(京都を中心に)

粽   (川端道喜・京都市左京区下鴨)

  • ※御所粽(ごしょちまき)や内裏粽(だいりちまき)と呼ばれる和菓子としての粽の原型は、室町時代後期、初代・川端道喜が朝廷に献上したもの。

錦粽  (駿河屋寿駿庵・京都市下京区烏丸通)
柏   (美鈴・神奈川県鎌倉市)
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参考文献

  • 『日次紀事』(大阪女子大学近世文学研究会編/1882年/前田書店)
  • 『京都 暮らしの大百科』(梅原猛・森谷尅久・市田ひろみ監修/2002年/淡交社)
  • 『季節を祝う 京の五節句』(京都府京都文化博物館編集/2000年/京都府京都文化博物館)
  • 『和菓子づくし 炉編・風炉編』(細田安兵衛・西山松之助監修/2006年/講談社)
  • 『北陸・京滋ふるさと大歳時記』(角川文化振興財団編/1994年/角川書店)
  • 『洛中洛外 京の祭と祭事12カ月』(落合利彦著/1999年/竹内書店新社)
  • 『節供の古典 花と生活文化の歴史』(桜井満著/1993年/雄山閣)
  • 『五節供の楽しみ 七草・雛祭・端午・七夕・重陽』(冷泉為人他著/1996年/淡交社)

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